管理栄養士や栄養士の資格を持たない者が、栄養指導を行う際の注意点を解説しておきます。
無資格や民間資格の人は訴訟リスクを低下させるためにも知っておきましょう。
相談する側の人も知っていると騙されて後悔しないで済むので、自衛のために知っておいてください。
無資格者のリスクとは。
名称独占・業務独占とは
管理栄養士資格は、名称独占資格であるとされています。
名称独占資格とは、特定の資格を持つ者だけがその資格に関連する名称を使用することが許される制度
資格を持たない者が、その名称を使用することは法的に禁止されています。
栄養士法第八条によると、以下の内容が三十万円以下の罰金に処されると書いてあります。
- 栄養士、管理栄養士のそれぞれの使用の停止を命ぜられた期間に、それぞれの名称を用いて特定の業務を行った場合
- 栄養士、管理栄養士に類似した名称で特定の業務を行った場合
この場合、無資格者は自衛のために、栄養士・管理栄養士に近い名称で仕事をしないという注意が必要です。
勝手に以下のような肩書で集客を行うと、罰せられる可能性があります。
- 栄養管理士
- 栄養指導士
おそらく分子栄養学カウンセラーとか、臨床分子栄養学研究会認定カウンセラーとかなら、社会通念上、栄養士や管理栄養士には間違えられないので、罰せられることは無いと思います。
しかし危険な栄養指導ばかりしていて問題が大きくなれば、それらの呼称でも法の拡大解釈を行い罰せられる可能性があります。
名乗らなければ、どのような指導をしても大丈夫と思わないことです。
分子栄養学の関係者を装って、危険な栄養指導をするのは、私個人からも止めて頂きたいと思います。
業務独占資格とは、医師・弁護士など、その資格を持つものだけが、その資格に関連する業務を行えうるもの
栄養士・管理栄養士は名称独占資格ですが、業務独占資格ではありません。
これらの名称を語って業務を行ってはいけませんが、これらの資格を持たないものでも、栄養士・管理栄養士の業務の範疇以外では栄養指導を行えるということです。
例えば、管理栄養士が栄養指導をすると決まっている介護施設で、介護士が独自に栄養指導を行っていたとしたら、罰せられる可能性があります。
しかし無資格者が自ら集客を行い、独自の栄養指導を行っていても、現在のところ栄養士法での罰則は無いと考えられます。
栄養士法以外のリスク
無資格者が栄養指導を行う上で、守るべきポイントが4つあります。
①明確な目的
例えばたんぱく質の摂取量が足りない健康な人に対して、プロテインの摂取を提案するというのは問題無いと考えられます。
②科学的根拠
日本人の食事摂取基準における、たんぱく質の推奨量のデータを示したり、推奨量の策定基準を伝えるのは問題が無いと考えられます。
③利害関係の無い推奨
例えば市販品の中でもっとも手に入りやすく、安価な商品として、特定の商品を紹介するのは問題が無いと考えられます。
しかし、自分や関係者が開発や販売に携わる商品であったり、アフィリエイト報酬を得る商品の場合は、その旨を相談者に伝えないと罰せられる可能性があります。
分子栄養学の関係者で『出汁&栄養スープ』に特定の健康効果があると称して、自身の販売サイトで販売している者がいます。
これはかなりマズイ行為だと思います。
販売会社の主張する根拠が科学的ではないし、それを信じて根拠として発表してしまう分子栄養学の関係者も大変マズイです。
早急に改善して頂くことを望みます。
プロテインも同様で、患者にビーレジェンドのプロテインばかり勧める行為も問題があると考えられます。
なるべく判断材料を提供するのみとして、具体的な商品名は出さないのが望ましいです。
それだと相談者が探すのが大変というのであれば、候補を複数用意して、価格や品質などの根拠を示し、自分と利害関係の無い商品を相談者に選んで貰うようにするなどすると、利害関係が少ないとみなされやすいと考えられます。
④相談者の健康改善
そして、実際に相談者の健康が改善することです。
間違っても逆に健康を害す方法を伝えてはいけません。
鉄剤100mg/日とか、MCT80g/日とかを状態がわかっていない人に勧めたら健康を害す可能性があります。
こういう指導をしてしまうと、無資格者の栄養指導への取り締まりが今後厳しくなると思います。
健康被害が起きてしまうと、訴えられるケースも考えられます。
実際に何名かの分子栄養学カウンセラーを訴えたいという相談を受けたこともあります。
無資格者が栄養指導を行うなら、①目的があり、②それを解決するための科学的根拠があり、③利害関係の無いことを証明しながら、④結果を出すというのが望まれます。
免責規定について
特定の疾病の改善のためのアドバイスというのは、無資格者は行うべきではありません。
そこで栄養相談を受ける際は、特定の疾患を改善する目的の指導ではない旨を伝える必要があります。
「◯◯すると治ります」という表現を行ってはいけません。
しかし、「日本人の摂取基準でビタミンCの推奨量は100mgとされています」という形であれば、情報提供であり改善のための指導ではないので問題が無いと考えられます。
自分の業務の範囲を明確にしておくことは、後のトラブルを避けることにも繋がるので、絶対に行っておきましょう。
例えば「私のカウンセリングを受けるとアトピーが治ります」と言って集客すれば、それを期待した人が集まります。
しかし治らなければ訴えられる可能性があります。
このため、無資格者の栄養指導は情報提供に留め、何かしらの改善をアピールしない方が望ましいです。
情報の根拠について
栄養指導の情報源としては、以下の3つが考えられいます。
- 統計的な情報
- 生化学的な機序
- 臨床経験や情報
この中のどれを元に話しているのか、相談者に明確に伝えるようにすることが肝心です。
100人中95人が良くなって、4人が変わらず、1人が悪化したという情報を提供するのが統計的な情報です。
コルチゾールの検査の結果、コルチゾールのレベルが低いことがわかったので、コルチゾールを温存するサプリを使うのを提案するのが生化学的な機序です。
自身や周囲の経験により、良いと思われる方法を提案するのが臨床経験や情報です。
このどれかが明確でないと、相談者は聞いた全てが体調改善に繋がる真実だと思ってしまう可能性があります。
どれも確実ではないが、現状最も妥当だと考えられる方法に相談者が辿り着けるように導けるのが、栄養指導者として望まれる姿勢だと思います。
無資格者が特に気をつけたいこと
分子栄養学に傾倒する人にありがちなこととして、自分が分子栄養学で習った範囲でしか物事を考えられないということです。
例えばコルチゾールが低下していたら、100%副腎疲労だと思ってしまう指導者もいると思います。
しかし、脳腫瘍、下垂体腫瘍などでもコルチゾールは低下します。
一生懸命副腎疲労のアドバイスをして、病院への通院の機会を失わせるということが無いようにしてください。
自分が想定しない疾患が隠れている可能性があるということは、常に頭に入れておいてください。
こうした情報は分子栄養学の講座では習わないはずです。
独自の学習が必要なので、分子栄養学の民間資格を取得しても、自分はアドバイスをできるレベルに達していると思わないことです。
資格を与える団体に認定されていても能力の担保にはなりません。
その能力のまま相談者に実害を与えても、その団体は守ってくれません。
実際に相談者が苦情を入れても、団体側は知らぬ存ぜぬだったそうです。
無資格者が栄養指導を行うなら、相当な覚悟を持って行う必要があります。
栄養士や管理栄養士にはできない栄養の仕事がたくさんあります。
標準治療では見放された人が、そうした方法で健康になっているとう現実があります。
だから無資格もしくは民間資格でカウンセラーを名乗り、人助けをしたいと思う人もいます。
しかし今回お話した通り、簡単な仕事ではありません。
少し裏ワザを知った気になって、表で何が行われているか全く理解せず、既存の栄養学を古典栄養学などと呼称して下に見て、自分が凄いことを知っているなどという驕りは持たないことです。
自分の無知と失敗を恐れ続けてください。
栄養指導の仕事は、相談者の健康と、自身の将来を潰しかねない緊張感のある仕事です。
それが理解できる人にだけ、分子栄養学の栄養の仕事をして頂きたいと思います。