分子栄養学と言えば糖質制限と高タンパク。
かつてそんなイメージを持たれていた方もいるかもしれません。
もう実践している人はほとんど居ない糖質制限について、おさらいしてみましょう。
糖質制限が最悪にダメな理由
カロリー計算をすると、糖質制限が健康法として成り立たないことが明らかです。
カロリーが含まれるのは、たんぱく質・脂質・炭水化物の三大栄養素です。
炭水化物は糖質と食物繊維のことで、ここでは食物繊維の話はしないので、炭水化物=糖質だと思ってください。
糖質を減らすと、その分たんぱく質と脂質を増やさなくてはなりません。
そうしないとカロリー全体で見た時に不足するからです。
例を見てみましょう。
理想のPFCバランス
身長160㎝・体重55kg週に3~5回の運動をする人が消費するのが約2,000kcalとされています。
たんぱく質をP 脂質をF 炭水化物をC として、PFCのバランスからカロリーの計算をしてみましょう。
日本人の食事摂取基準2020年版に記載の、以下の研究を元に55%で計算します。
アメリカ人中年男女(45〜64 歳)15,428 人を 25 年間追跡して、炭水化物摂取量と 総死亡率との関連を検討した報告によると、炭水化物摂取量が 50〜55% エネルギーであった集団 で最も低い総死亡率と最も長い平均期待余命が観察された。
摂取目標2,000kcal
- P:55g(220kcal)
- F:75:(680kcal)
- C:275g(1,100kcal)
- 活動代謝から摂取カロリーを2,000に設定
- 食事摂取基準の推定から体重1kgあたり1gに設定
- 上記論文から2,000の55%を炭水化物として設定
- カロリーからたんぱく質と糖質を引き脂質を設定
このPFCバランスが、統計的に最も死亡率が少ないと考えられます。
糖質制限を計算してみる
次に糖質制限を行った場合です。
糖質制限という言葉自体に定義は無いのですが、厳格な糖質制限をさせる人は1日20g以下で設定するので、その数値を参考にします。
摂取目標2,000kcal
- P:55g(220kcal)
- F::188g(1,700kcal)
- C:20g(80kcal)
無理矢理2,000kcalにしようとすると、脂質のカロリーがとんでもないことになります。
切れてるバターが1つの脂質が8.1gです。
脂質188gだと、切れてるバター約23個分の量になります。
全てバターで摂取することはないですが、これだけの量の脂質を摂らないと、目標のカロリーに達しません。
現実的にはここまで脂質を摂らなくなるので、カロリーの不足に陥ります。
カロリーが不足すると
約7,200kcalのマイナスで体重が1kg減少するとされています。
毎日240kcalのマイナスだと30日で1kgづつ減っていく計算になります。
糖質制限を行って急速に痩せている人の摂取カロリーは、この計算通りに足りていないと考えられます。
しかしある時から体重の減り方が少なくなったり、下げ止まります。
これは代謝を決定している甲状腺の機能が低下した状態だと考えられます。
場合によっては回復に何年もかかるので、糖質制限を含む無計画なダイエットは危険です。
無理矢理脂質を摂ると
無理に脂質を摂ろうとして、牛脂スープを飲むという考えも一部ではあるそうです。
動物性の脂質には飽和脂肪酸が多いのですが、心筋梗塞や生活習慣病の予防の観点から、総摂取カロリーに対する飽和脂肪酸の摂取量の割合が定められています。
成人では男女とも、総摂取カロリーの7%以下であることが望ましいと考えられます。
長期の糖質制限をしていても、脂質でカロリーを摂っているから大丈夫とはならないことがわかります。
飽和脂肪酸以外に、多価不飽和脂肪酸というのもありますが、こちらも血管内で遊離脂肪酸という状態になって過剰に存在すると、心臓のミトコンドリアを損傷させることが知られています。
どの種類の脂質であっても過剰摂取になれば心疾患や生活習慣病のリスクを上げることが考えられます。
糖質制限の初期は痩せやすい理由
肝臓にはグリコーゲンという形で糖質が含まれます。
グリコーゲンは水を保つ性質があるため、肝臓内には糖質と水分が溜まっています。
この重量が2kgほどあるので、糖質制限をすると数日で2kg程度痩せるのです。
これを体重計の結果でしか判断しない人は、2kg減ったと喜びます。
しかし、ここで減った分は水分と糖質を摂れば数時間で元に戻ってしまいます。
糖質制限は体重減少のスタートダッシュは良いのですが、長期のダイエットを行った場合は、脂質制限やカロリー制限と結果が変わらないという話があります。
早期に結果が得られやすいので、飛びつきやすいのが糖質制限ですが、長期的視点とリスクをよく考えて行わないと、以下の体調不良が起きる可能性があります。
糖質制限で副腎疲労が悪化する理由
糖質が枯渇した状態では、コルチゾール、アドレナリン、ノルアドレナリンなどにより、肝臓のグリコーゲンや、筋肉・脂肪の分解などで血糖値を上昇させます。
これらのホルモンを出す状況自体が、副腎疲労のステージを進行させる行為です。
抵抗期になればインスリン抵抗性で太りやすくなるし、疲弊期になれば代謝低下による肥満か、異化亢進による痩せのどちらかになります。
糖質制限は、副腎疲労のステージが進行するまでしか行なえません。
もし仮に長期間行える人がいたとしたら、仕事の量をを自分のペースで調整できたり、炎症が少ない体質の人です。
忙しくてストレスの多い大半の人が糖質制限をすると、早期に副腎疲労が悪化して低血糖と炎症による辛い毎日を送ることになるでしょう。
糖質制限まとめ
- カロリー計算をすると矛盾が見える
- 糖質制限したつもりが、カロリー制限をしている可能性が高い
- 長期のカロリー制限は甲状腺の機能を低下させる
- カロリーを補おうとして脂質を摂りすぎると、生活習慣病や心疾患のリスクがあがる
- 寿命が長くなるのはカロリー全体の50~60%を糖質にしたとき
- 痩せるペースが早いのは短期間だけ
- 糖質制限は副腎疲労を悪化させる
あとがき
一部では、カロリーという概念自体を否定する人がいるようです。
カロリーを計算されると矛盾が見えてしまうので、都合が悪いのかもしれません。
副腎疲労や甲状腺機能の異常がなければ、カロリーの摂取量の通りにヒトの体重は増減します。
カロリー計算をした通りに体重が増減しないときは、何らかの問題を抱えている可能性が高いです。
そんな時に痩せようとして糖質制限をしてしまうと、ますます体調を悪化させます。
過度な肥満や高脂血症などで医師の指示のもと、短期間の糖質制限を行うのは良いかもしれません。
しかし、それも遊離脂肪酸の増加による心停止などのリスクがあり、不安が残ります。
安易な糖質制限をしている人がいたら、この記事を見せてあげてください。
命を守ることに繋がるかもしれません。