「卵は1日何個まで?」で考える栄養学と分子栄養学の違い

「卵は1日何個まで?」で考える栄養学と分子栄養学の違い

卵は1日何個まで食べて良いのかといテーマは、以前から話題になっています。

  • 2~3個?
  • いや、それは食べ過ぎ
  • 実は1個

などと、不毛な議論が繰り返されてきました。

今日はその議論に終止符を打つための答えを発表します。

目次

栄養学の考え方

栄養学は個人の身体の中で何が起きているかはあまり考えず、統計的なデータを元に栄養素の摂取量を決定します。

例えば、ビールを摂取する習慣がある10万人の調査で、ビールの摂取量が500ml/日を超えると心疾患のリスクが◯%上がるという結果から、ビールの摂取量の目安を決めたりします。 (※考え方の話であり、事実とは異なります。)

500ml/日以上で統計的に何らかの疾患が増えるとわかった場合、500ml/日以下という目標だとリスクが高いので、不確実性因子というものを考慮して、500ml/日以下を摂取目安量とします。

不確実性因子が2であれば、250ml/日となります。

ビールの摂取量と疾患のリスクがわかれば、同じ量のアルコールを摂取した場合の他の種類のアルコール飲料を摂取した場合のリスクも想像することができます。

しかしアルコール飲料ごとにアルコール以外の成分が含まれるため、アルコールの摂取量と特定の疾患の関係の結果は純粋にアルコールの量のみでは判明しない可能性があります。

そこで「結論を出すには追加の調査が求められる」と締められる場合が多いのが、統計的な考え方です。

栄養学における卵の摂取量

米国の研究だと、卵とコレステロールの摂取量が増えると、共に心血管疾患のリスクが上昇したとされています。

PLoS Med. 2021 Feb 9;18(2):e1003508. doi

一方中国の研究では、1日1個程度の卵の摂取は心血管疾患のリスクを低下させると結論付けられています。

Heart. 2018 Nov;104(21):1756-1763. doi

同じ卵の摂取量のテーマなのに、米国では減らせば減らすほど心血管疾患のリスクが低下するとして、中国では1日1個程度が心血管疾患のリスクを低下させると結論づけています。

米国・中国共に卵黄の中のコレステロールの摂取量と動脈硬化による心血管疾患の関係を考慮して研究が進められています。

どのような傾向のある人が動脈硬化になるかという議論に対しては、栄養学はあまり触れていません。

分子栄養学におけるコレステロールの考え方

分子栄養学の基礎理論は生化学なので、生化学的にコレステロールの代謝について考えてみます。

更に、ゴールはコレステロールのレベルを低下させることではなく、動脈硬化により心血管疾患を起こさないようにすることとします。

コレステロールは体内で合成します。

食事中のコレステロールの摂取量が増えると、体内で合成する量を調整すると考えられます。

コレステロールの合成経路を確認してみましょう。

コレステロールの合成経路

STEP
アセチルCoAの合成

三大栄養素を消化・吸収・代謝させるとアセチルCoAを合成します。

STEP
HMG-CoAの合成

アセチルCoAは、さらにヒドロキシメチルグルタリルCoA(HMG-CoA)という化合物に変換されます。

STEP
メバロン酸の形成

HMG-CoAは、HMG-CoA還元酵素(HMGCR)の作用によりメバロン酸に変換されます。

この反応はコレステロール合成の最も重要な調節点であり、スタチンと呼ばれる薬剤がこの反応を阻害することで、コレステロール合成を抑制することができます。

STEP
イソプレン類の形成

メバロン酸はさらにデカプレニル二リン酸(IPP)やジメチルアリル二リン酸(DMAPP)などのイソプレン類に変換されます。

STEP
スクアレンの形成

イソプレン類はさらに合成され、スクアレンという化合物に変換されます。

STEP
コレステロールの完成

最終的に、スクアレンはさまざまな反応を経てコレステロールに変換されます。

要するにエネルギーにならずに余ったカロリーがコレステロールになりやすいので、カロリーの摂取量を考慮する必要があるということです。

また、活動量に合わせて三大栄養素を適切に摂取していれば、栄養素がの過剰と欠乏のタイミングが起きづらくなり、「常に必要なエネルギーを作れているが摂取カロリーが過剰にもならない」という状態を作りやすくなると考えられます。

少し難しい話が続いたので、平たい表現にしてみます。

朝は食欲が沸かないのでコーヒーとプロテイン10gだけにします。

このときエネルギーは枯渇しやすく、コレステロールの合成は進みません。

昼ごはんは会社でランチを食べます。

同僚に誘われたのでパスタにしました。

そのときに必要なエネルギーを作る分以上の糖質が一度に入ってきます。

余った分はコレステロールの合成に回されます。

夜は作るのが面倒なのでラーメンを食べます。

猛烈な空腹感があるので、ライスも付けました。

この人は食後数時間以外はエネルギーが枯渇していて、十分なスペックを発揮できず、食事のタイミングはコレステロールを過剰に作り過ぎる可能性があります。

昼と夜の糖質や脂質を少し減らして、食事と食事の間に軽く果物や少量の甘い飲み物などを摂取できるとエネルギーの枯渇を起こしにくく、コレステロールの過剰な合成も抑えられたかもしれません。

このように、コレステロールの値は以下の要因によって変動するものであり、卵だけで決められるものではないことがわかります。

  • 総摂取カロリー
  • 食べるタイミングと量
  • ATPの必要量(活動代謝)

コレステロールの用途

体内でコレステロールはこれらの用途で使われます。

  • 細胞膜の構成
  • ステロイドホルモンの合成 (エストロゲン・テストステロン・コルチゾール等)
  • ビタミンDの合成
  • 胆汁酸の合成
  • 神経系の保護と神経伝達
  • 脂質の輸送

代謝が下がり用途が少なくなると、LDLコレステロールの数値が上がることがあります。

甲状腺の機能が低下すると、低血糖により中性脂肪の数値が下がるのに、代謝の低下によりコレステロールの利用が制限されて、LDLの数値が上がるという場合があります。

わかりやすくするために、雑な数値の解説をします。

※実際はもっと複雑です。

食べ過ぎの人

  • 中性脂肪200
  • LDL180 甲状腺機能低下(代謝低下)の人
  • 中性脂肪30 ・LDL180

※日本人間ドック学会が掲げるLDLコレステロールの基準範囲は、60〜119mg/dl 食べ過ぎのLDL高値は、エネルギーの過剰によりコレステロールを作りすぎたのが原因。

代謝低下のLDL高値は、コレステロールの使い道が制限されて余ったのが原因だと考えられます。

それぞれでLDLが高くなった理由が違うので、対応も異なります。

食べ過ぎているならカロリーを適正にする必要があるし、代謝が低下しているなら、ややオーバーカロリーにして、補食などでエネルギーが枯渇した時間帯を作らないことが対応となります。

このように身体の中で起きていることが人によって異なるので、卵の摂取量だけで動脈硬化や心血管疾患をコントロールしようとするのは、分子栄養学ではナンセンスだと考えられます。

結局卵は1日何個なの?

先程①~⑥で述べたように、コレステロールは重要な働きがあります。

体内でコレステロールを合成しにくいような、少食の人、アンダーカロリーの人は、総コレステロール、HDL、LDLの血液検査の数値をモニタリングしながら、何個も食べて良いと思います。

しかし食べすぎるとアレルギーなどのコレステロールとは別の危険因子も考えられるので、炎症しやすい状態や、既にアレルギー症状がある場合は摂取頻度を減らした方が良いかもしれません。

逆にオーバーカロリーでコレステロールの合成が十分にできている人は、卵黄は食べずに卵白のみにするなどの対応が必要かと思います。

1日◯個食べても大丈夫という答えが知りたいと思いますが、そんな正解はありません。

誰でも当てはまる正解は無く、身体の仕組みを理解することで、適切な摂取量を考えながら食事をすることが可能となります。

まとめ

栄養学は統計学をベースにして栄養素の摂取量を決めています。

分子栄養学は生化学をベースに栄養素の摂取の仕方を考えます。

統計学は、因果関係の確定が難しいという弱点があります。

例えば卵の摂取量が増えたから心疾患が増えたのか、全く別の要因で心疾患が増えた人が、たまたま卵をたくさん食べていたということの違いを知ることができません。

生化学は机上の空論になりやすいという弱点があります。

誰かの思いつきで大量のEAAを飲ませた結果、健康被害を生じた人が増えたということが過去にありました。

統計学だけだと個人の状態を最高に保つことはできないし、生化学だけだと予想しなかった事が起きたときに大問題となります。

両方バランス良く学ぶことで、より良い状態で身体を保つことができると考えます。

一部の不勉強な分子栄養学の関係者を指して、分子栄養学を否定する管理栄養士や栄養疫学の人。

分子栄養学の一部だけをわかっただけで、分子栄養学が栄養学の上位互換だと自惚れている、分子栄養学の関係者。

どちらも少し足りていません。

両方深く学ぶ必要があると思います。

現状はそんな状況なので、特定個人の発信に傾倒するのではなく、総合的に判断するための知識をひたすら積み上げましょう。

それができる人だけが、妥当な選択をし続けられるのだと思います。

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