高額なケイ素のサプリは必要ですか?
左:ケイ素添加の餌を与えた鶏
右:ケイ素無添加の餌を与えた鶏
この写真を見ると、ケイ素が必要だと感じてしまうかもしれません。
現実的には起こり得ないケイ素欠乏
しかし、この写真が掲載された記事によると、ケイ素は微粉塵などで環境中にどこでも豊富に存在するので、無ケイ素で動物を飼育するのは困難ということです。
無ケイ素の環境を作るために行ったこと
- 空気清浄機の設置で空気中のケイ素の粉塵を除去
- ケイ素をほとんど含まないプラスチック製の飼育器を使用
- ケイ素含有量の極めて少ない資料で育てる
ここまでして、やっと欠乏症を起こすことができたそうです。
通常人間が生きていく状態とは、かけ離れた環境でしか、ケイ素の欠乏は起きないと考えられます。
ケイ素の危険性
また、ケイ素には危険性があります。
アスベストは肺がんの原因になると知られています。
アスベストは繊維状けい酸塩鉱物で、ケイ素を含みます。
アスベストを吸い込む仕事をする人が呼吸機能を害するケイ肺症の発症機序は、次の通りです。
ケイ肺症が発み症する仕組
肺胞にあるマクロファージがケイ素の微粒子を取り込む
↓
細胞内のリソソームが壊れる
↓
分解酵素が漏れてマクロファージが機能しなくなる
↓
それが刺激となり線維芽細胞による膠原線維の生成が起こる
↓
肺が線維化して伸縮しづらくなり、呼吸が困難になる
実際に、イランでは食道がんが多発する地域があり、この原因が住民が食するパンに混じっているクサヨシ属の植物のケイ酸質の毛だとされています。
過剰なケイ素が、肺や食道を通過した際に悪影響があると考えられます。
ケイ素が身体に良いと思って、スギナなどの野草を飲む人がいますが、同じ仕組みで私はお勧めしません。
通常状態では欠乏が起きないと考えられる栄養素を、わざわざリスクを犯して摂取する理由がわかりません。
ケイ素水に対する行政指導
独立行政法人国民生活センターの『シリカやケイ素を摂取できるとうたった飲料、健康食品等に関する調査』によると、以下の報告がされています。
2022 年 6 月には、ケイ素に関連して合理的な根拠なくさまざまな効果を広告したとして、消費者庁 により景品表示法に係る措置命令が行われるという事例がありました。
もし分子栄養学の関係者で、何らかの健康効果を謳ってケイ素の販売をしている者がいたら、行政処分を受ける可能性がある行為をしているということかもしれません。
日本人の食事摂取基準にケイ素の記載は無い
管理栄養士が栄養指導の根拠とする、日本人の食事摂取基準にはケイ素の記載はありません。
通常の食事をしている限り、欠乏も過剰も起きた事象が見つかっていないということです。
見つかっていないというだけで、もしかしたらあったのかもしれません。
しかし確率的には非常に低いと考えられます。
集団で何らかの欠乏・過剰があれば調査をするはずです。
人体に必要な栄養素ではあるので、今後の記載が検討される可能性はありますが、現在のところ、そのような話はありません。
次回の2025年の摂取基準の策定会議でも話題に上がっていません。
まずは食事摂取基準に掲載されている栄養素の過不足が起きないような、栄養価計算をした食事を用意できるようになるスキルが優先されるべきだと考えられます。
「ケイ素が効きました」という意見に対する反論
しかしケイ素のサプリに効果があったという主張があるかもしれません。
それに対していくつかの反論が考えられます。
①食事の内容が偏っている 特定の食材だけでローテーションしている、全体の量が極端に少ないなど、ケイ素だけではなく他の栄養素も欠乏しやすい状態であった。
②遺伝的にコラーゲンの合成がしにくい コラーゲンの合成に関わる酵素を作る遺伝子の変異により、材料であるケイ素を大量に摂取すると正常な状態に近づける体質。
これは理論上起こり得るということで、現段階で証明されていません。
ケイ素が効いたという人は、大きく分けてこの2パターンだと思います。
※全然別の要因で体調が良くなったのに、たまたまそのタイミングでケイ素のサプリを摂取していたパターンは除外します。
①に関しては栄養価計算を覚えるのが先です。
②に関してはケイ素のサプリはありがたい存在なので、栄養価計算をした食事をした上で取り入れる必要があるか検討しても良いかと思います。
ケイ素サプリの販売者の実態
このように現実的に起こり得ないのがケイ素欠乏であり、実際にあったとしても理論上の話です。
しかし、ケイ素サプリを販売する業者は、必要のない人にも販売します。
本当に欠乏をしている人を、検査の数値から見極めて販売するなら根拠があるから筋は通っていると思います。
でも実際には検査をせずに販売するか、検査をしても検査結果に対して適切な対応が取れてない可能性があります。
例えば、オリゴスキャンでケイ素の不足を指摘されたとしましょう。
このときケイ素の欠乏を起こす食生活や生活習慣を指導されずに、ケイ素のサプリだけを売られる可能性があります。
例えばコラーゲンや骨に多いケイ素ですが、アンダーカロリーで異化が亢進している状況でケイ素の排出が増えているなら、カロリーを増やす食事指導が先に行われるべきです。
ケイ素の販売が優先されるべきではありません。
常識的な栄養指導として、欠乏を起こしている人が食事の改善をできない理由を一緒に考え、問題を1つ1つ取り除いていくという当たり前のことをしていくのが優先です。
これをせずにケイ素の販売だけ行って、拝金主義の商売だと揶揄されても言い逃れできません。
追記:ケイ素の体内での性質自体が研究が進んでいません。
オリゴスキャンで調べた日にたまたま数値が低く、ケイ素が豊富な食事を摂るとすぐに充足する可能性があります。
その点からもサプリで摂取する根拠が不明です。
最後に
ここまで、拝金主義的なサプリの販売方法に対する注意喚起として、ケイ素の事例を出しました。
しかしケイ素の摂取によりラットの血管が強化されたり、親鶏の産んだ卵のアミノ酸濃度が上昇したという研究があります。
だから試してみるのは全然良いと思います。
しかし、先に行うのは栄養価計算です。
基本ができていない人が、サプリに頼っても望ましい結果は得られないでしょう。