あなたが非常に忙しい生活をしていたとします。
そこで、完全栄養食の製品を作ろうと思い付きました。
毎日の食事を用意するのが面倒なので、袋を開ければ簡単に食べられて、全ての栄養素がバランス良く含まれる製品があったら良いと考えたのです。
これが製品化すれば、多くの人が助かると思いました。
そのために会社を立ち上げ、製品を製造する方法を考えようとしました。
ところで、『完全な栄養バランス』とは何か?
この疑問を解決するためには、各栄養素の欠乏と過剰が起きない量を知る必要があります。
この情報が得られる唯一の指標が、『日本人の食事摂取基準』です。
画像引用:『日本人の食事摂取基準20205年版より』
このため、日本人の食事摂取基準に記載のある、全ての栄養素を完全栄養食の製品に入れて、各栄養素の量は、日本人の食事摂取基準の推奨量または、目安量を参考にすれば良いと考えました。
ところがあなたは、あることに気が付きました。
フラボノイドや乳酸菌や、さまざまな種類の食物繊維を摂る必要性は、日本人の食事摂取基準には直接的な記載が無いが、作ろうとしている完全食品の製品に、含めなくても良いのだろうか?
日本人の食事摂取基準には、さきほどの画像に含まれる栄養素についてしか記載されていないので、その他の栄養素を含めなくていも良いのか、心配になったのです。
ところが、日本人の食事摂取基準にそれらの記載はなく、他の研究などで調べても、万人に当てはまる明確な答えは見つかりません。
このため、特定の製品や献立で、健康を維持し続けることはできないと悟るのです。
私は日本人の食事摂取基準を参考に栄養バランスが取れた製品を作ろうとした。
しかしこの基準は、様々な食品をバランス良く食べた場合を想定して作られている。
だから、そこに記載のある栄養素の数値だけを合わせても、食事の代替品は作れないことがわかった。
残念だが製品化は断念しよう。
少し専門的な話なので、この枠内の内容は、読み飛ばしても構いません。
日本人の食事摂取基準の各種指標は、国民健康・栄養調査のデータを元に作成されています。
専門の訓練を受けた管理栄養士が、一般家庭に調査の協力を依頼して、食事の内容を聞き取り、栄養素の摂取量を推定して、統計的な手法を用いて、個人に必要な栄養素の所要量を推定しているのです。
このため、日本人の食事摂取基準のデータの根拠となるのは「食品」であり、それと同じ内容を「特定の完全栄養食」で再現して摂取しても、同じ結果が得られる保証は無いのです。
「完全栄養食」の安全性や効果を調べるなら、「完全栄養食」での調査や研究が必要です。
しかし、長期間に渡りその影響を追跡調査したデータは存在しないため、完全栄養食品の安全性や効果は不明なのです。
少し難しい話が続いたので、身近な例で考えてみましょう。
- 特定の銘柄のヨーグルトや納豆などの発酵食品を食べると、お通じの状態や、体調が良くなる
- ランダムに様々な種類の食物繊維を含む食品を食べることで、腸内細菌の種類と数が豊富になり、腸の状態や体調が良くなる
- 酸化ストレスが強くなる職場環境に就いており、血液検査でもそれが明らかだが、果物を多めに食べてフラボノイドなどを摂取していると、その数値が下がる
これらは十分にあり得ると考えられる、我々の身体に起きる現象です。
これを特定の「完全栄養食の製品」が、再現することは不可能です。
栄養摂取というのは、日々変化する自分の身体の状態と特性を把握して、そこに適切な変化をもたらすことで、望む状態に導くために行います。
毎日同じ製品や献立を食べ続けるというのは、日々変化する身体の状態や、誰一人同じ状態ではない、個人の体質や特性を無視した行為と言えます。
このため、「完全栄養食の製品」を食べ続けたり、毎日同じメニューばかり食べている人は、身体を最適な状態に維持・調整しようとする行為を放棄していると言えます。
確かに、忙しい毎日の中で、食べる物に対して考えを巡らせることは、大変かもしれません。
食事のレパートリーを増やしても、短期的には効果を実感できないと感じるかもしれません。
しかし、長期的には、確実に身体への影響が実感できるはずです。
忙しくて食事について考えたり、選んだりする余裕が無いと言う人が居ます。
しかし、その人は食事が身体に与える重要性を理解していないだけです。
そういう人は、食事や栄養について考え続けるメリットを知れば、必ずそれについて考える優先順位が上がるはずです。
忙しくて食事について考えられないのではなく、食事が与える身体への影響を知らないから、それを疎かにするのです。
たとえ管理栄養士が日本人の食事摂取基準の主旨の通りに、様々な食品を使って献立を作り、あなたに提供したとしても、あなたの身体の状態が最適化されることはありません。
食事をして感じる体感や体調から、自身の身体に起きていることを、生化学的及び生理学的に言語化して、適宜修正していくというのは、自分自身にしかできないのです。
どんなに立派な肩書がある栄養の専門家であっても、あなたの身体を最適化させるための正解となる食事内容を知っている人は、この世に存在しないのです。
だから、栄養が身体に与える影響は、あなた自身が考えていく必要があります。
日本人の食事摂取基準の主旨や、それを運用することの限界を理解して、その先の健康を、あなたが手に入れられるようになることを、心より願っています。
完全栄養食を作れない3つの理由:
- 「バランスの良い食事」となる栄養素の所要量は日本人の食事摂取基準に記載がある
- 日本人の食事摂取基準は、様々な食品を食べた時のデータを元に作成されている
- 完全栄養食を食べ続けた場合の効果や安全性のエビデンスが存在しない
多くの人が到達できない健康状態を、あなたには実感して欲しいです。
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