本記事は架空の卒業式スピーチを想定した内容です。実在の学校、人物、団体とは一切関係ありません。筆者は管理栄養士ではなく、ここでの見解は専門家の意見を代表するものではありません。
親愛なる卒業生の皆さん、
本日、皆さんは管理栄養士としての新たな旅路の第一歩を踏み出します。これまでの努力と研鑽を心からお祝い申し上げます。
これから皆さんが歩む道は、人々の健康と幸福に深く関わる重要なものです。しかし、その道のりには多くの挑戦が待ち受けています。今日は、皆さんがこれから直面するであろう現実と、それに対してどのような姿勢で臨むべきかについて、率直にお話しさせていただきます。
まず、覚えておいていただきたいのは、完璧な栄養管理というものは存在しないということです。皆さんは日本人の食事摂取基準や様々な栄養理論を学んできました。しかし、これらは決して絶対的なものではありません。それらは、限られたデータと統計的手法に基づいた、現時点での最善の推測に過ぎないのです。
皆さんが提供する食事が、全ての人にとって最適であるということはあり得ません。喫食率100%を達成することが難しいように、健康面でも全ての期待に応えることは不可能です。個人の嗜好や体質、生活環境は千差万別であり、それぞれに最適な栄養管理の方法は異なります。
皆さんに求められるのは、「栄養全般の専門家」を気取ることではありません。むしろ、自分の役割と限界を正確に理解し、与えられた条件の中で最善を尽くす姿勢です。日本人の食事摂取基準に基づき、主要な栄養素の過不足による疾患を予防するための食事を提供すること。これが皆さんの主たる責務です。
そして、もう一つ重要な点があります。皆さんがこれから出会う栄養の世界は、私たちが学んできた範囲をはるかに超えて広大です。管理栄養士の資格を持たない人々の中にも、独自の方法で人々の健康維持や向上に貢献している方々がいることを、心に留めておいてください。
時には、管理栄養士である私たちの指導では改善が見られなかった方が、他の手法で健康を取り戻すこともあるでしょう。そのような場面に遭遇した時、皆さんはどのように反応しますか？ここで重要なのは、オープンな心を持ち、自分たちが知らない技法で誰かの役に立てる人がいることを素直に喜べる態度です。
なぜなら、もし皆さんが否定的な態度を取れば、それは深刻な結果をもたらす可能性があるからです。管理栄養士にはできない技術で体調を改善させる栄養指導をする無資格者と、その方法で健康を取り戻した人が、皆さんの否定的な態度を目にしたとき、何を思うでしょうか。それは管理栄養士全体への敵意につながるかもしれません。そして、そのような敵意は、管理栄養士という職業全体の信頼を失墜させる可能性があるのです。
必要なのは否定ではなく、自分のできる範囲を自覚して、その範囲の中で価値を提供することと、自分が知らない技法に対して敬意を持つことです。栄養で社会貢献をしているのは、自分たちだけではないという自覚を持ち、できる範囲で研鑽を積みましょう。
真のプロフェッショナルとは、自分の限界を知りつつ、その中で最大限の努力を惜しまない人のことです。完璧を求めるのではなく、現実的な目標を立て、着実に前進する人のことです。そして、他の専門家や手法に対して敬意を持ち、常に学び続ける姿勢を持つ人のことです。
皆さんには、人々の健康を支える大切な使命があります。その使命を果たすためには、知識や技術だけでなく、謙虚さと誠実さ、そして現実を直視する勇気が必要です。また、多様な栄養アプローチの存在を認め、尊重する広い心も必要です。
これから皆さんが歩む道のりは、決して楽なものではありません。しかし、自分の役割を正しく理解し、できることとできないことを冷静に見極め、その中で最善を尽くすなら、必ず価値ある貢献ができるはずです。そして、他の栄養アプローチとの協調や相互理解を通じて、より豊かな栄養の世界を築いていけるはずです。
皆さんの前途に幸多からんことを祈念して、私の言葉とさせていただきます。おめでとうございます、そしてこれからの栄養の世界を共に、そして他の栄養アプローチの実践者たちと協力して築いていきましょう。
