とあるSNSである方が、「牛乳をたくさん飲むと骨折のリスクが高くなることが証明されました」と発言されていました。
この方は「牛乳を飲むと健康に良くない」という内容の本を出されているようです。
そのSNSの投稿ではジャーナルと年号しか記載が無かったため、確実とは言えませんが、恐らくこれが該当する論文で間違いないだろうという物を見つけました。
Journal of Nutritional Science, 12, E96. doi:10.1017/jns.2023.63
この論文では、確かに牛乳の摂取を増やす と400g/日まで段階的に大腿骨近位部骨折が増えると書かれています。
統計的にというのと、大腿骨近位部骨折というのがポイントです。
統計的にというのは、あくまで確率の話です。
牛乳の摂取により体内で何が起きていたかは触れられていません。
そしてもう一つ。
大腿骨近位部骨折についてです。
なぜ骨密度ではなく、大腿骨近位部骨折なのか。
大腿骨近位部骨折というのは、股関節周辺の脚の骨の骨折です。
相当な外圧がかからないと骨密度が正常な成人が折れる場所ではないそうです。
しかし骨密度が低下した老人は折れやすくなるそうです。
そこで老人の骨密度が低下する理由を考えてみます。
①エストロゲン分泌の低下
骨は常に破壊と再生を繰り返して新陳代謝をしています。
閉経後にエストロゲンが減ると、破壊を制御する働きが弱まり、骨密度が低下すると言われています。
②運動不足
重量の刺激は骨密度を上昇させると言われています。
高齢になり運動不足になると、骨密度が低下すると考えられます。
③カルシウム、ビタミンDなどの栄養素の不足
骨の合成に必要な栄養素が不足すると、骨密度が低下するとされています。
このように、骨密度の低下は特定の食品の摂取量以外にも、たくさんの要因が関係しています。
そしてもう一点が、大腿骨近位部骨折は普通にしていれば、なかなか起きるものではなく、何かしらの外圧(横向きの転倒など)が起きた際に骨折している可能性が高いということです。
このようなプロテクターの使用でも、数値上の大腿骨近位部骨折の確率は減らせてしまいます。
牛乳を飲むと何かの影響で転倒しやすくなり、更に骨密度が低下するという、あり得ない状況でないと、この論文の統計的な数値だけを参考にすることはできません。
更にその投稿をされた方は、論文の最後にある、以下の文章については触れていません。
『ヨーグルトとチーズの摂取量が多いと股関節骨折のリスクが低いことが報告されました。』
牛乳を飲む量が増えると大腿骨近位部骨折が増えると言うのであれば、ヨーグルトとチーズの摂取量が増えると、大腿骨近位部骨折のリスクが減ることも記載すべきではないでしょうか?
私はこの件に関して白黒付けたりはしませんが、このように情報を複数の視点から見ると、特定の人のSNSの投稿だけを見た場合とは異なる結論が得られるのではないでしょうか?
少なくても1つの情報源だけを参考にしたときより、いろいろ考えられるようになると思います。
論文を引用されると、まるで真実のように錯覚してしまうことがあるかもしれません。
しかし、どんなに有名な人が発言した内容でも論文の全文は読みましょう。
それをしないで真に受けてしまうと、間違った情報で健康を害してしまう可能性があります。
まとめ
今回紹介した論文は、フィンランドなどの日光が少ない地域を元にした論文などを統合して研究されたものだと思います。
(メタアナリシス) 日光が少なければ、当然ビタミンDが不足しやすくなります。
そして高身長であることも、転倒の際の衝撃を増やす要因となります。
牛乳の摂取量だけに注目せず、骨密度や、ビタミンDとエストロゲンの血中濃度、平均身長、運動習慣、大腿骨近位部骨折が起きたときの状況などを総合的に判断しないと、妥当な判断は下せないと思います。
牛乳をよく飲む人は活動的で転倒リスクが高くなって、大腿骨近位部骨折をしたとしても、この統計と同じ結果になってしまいます。
有名な人が語ると、真実のように思ってしまうかもしれません。
しかしそれを信じてカルシウム不足になり、虫歯や骨折のリスクが上がっても、誰も責任を取ってくれません。
栄養と健康の情報は十分に調べてから結論を出しましょう。